ニュースの概要
日本ペイント中国は、中国・陝西省で稼働した8インチ半導体生産ラインに採用された床と建築用の塗装システムを公表した。中核の生産エリアには、静電気をためにくく、重い設備や人・台車の繰り返しの通行にも耐えるセルフレベリング床材を使用した。壁や柱などには水性エポキシ塗料を用い、継ぎ目の少ない平滑な面をつくることで、微粒子の付着を抑え、清掃しやすくしたという。半導体の工場では、微粒子、静電気、揮発性物質、設備の振動といった要因が歩留まり(=良品の取れる割合)に直結する。今回の事例は、建物の内装材が生産品質の一部として設計されていることを示している。
引用元: 日本ペイント、半導体工場向け帯電防止セルフレベリング床システムを紹介(PCI Magazine)
分析・見解
床は内装ではなく生産設備の一部になっている
半導体の製造ラインでは、回路の線幅が髪の毛の数千分の一という世界で作業が進む。そこでは目に見えないほど小さなほこりでも、不良の原因になる。床は人や台車が毎日踏む場所であり、摩耗した粉や継ぎ目のすき間が、そのまま粒子の発生源になりかねない。だから床材には「きれいに見える」以上の性能が求められる。
セルフレベリング(=流し込むだけで自然に平らになる)工法は、この要求と相性がよい。タイルやシートのように継ぎ目を作らず、一枚の連続した面に仕上げられる。清掃で汚れが溜まる溝が少なく、拭き取りも速い。
静電気をためない床がもたらす歩留まりの差
静電気は、半導体にとって見えない敵である。人が歩くだけで数千ボルト単位の電気が発生することもあり、これが放電すると回路を傷めたり、空気中の微粒子をウエハーに引き寄せたりする。帯電防止の床は、電気を少しずつ逃がして帯電量を低く保つ働きをする。
今回の施設が8インチ、つまり直径200ミリのウエハーを扱う点も興味深い。8インチは最先端ではないが、車載向けのパワー半導体やセンサーなどで需要が根強い。こうした成熟した製造ラインでは、微細化で競う余地が小さい。その分、歩留まりを数ポイント上げる地道な環境整備が、そのまま利益率に響く。
水性エポキシを壁と柱に使う意味
壁や柱に水性エポキシを選んだ点も見逃せない。溶剤系の塗料は、乾く過程で揮発性の有機化合物を出す。半導体の工程では、こうした微量のガスが膜の品質を損なうことがある。水性なら揮発成分が少なく、施工後の立ち上げ期間を短くしやすい。
さらに、床と壁を同じ系統の材料でそろえると、境目の処理がしやすくなる。角の部分に丸みを持たせて粒子の溜まりを防ぐといった細かな作り込みも、同じ材料体系だからこそ実現しやすい。
中国の半導体投資と材料メーカーの立ち位置
中国は半導体の自給率を高める政策を進めており、内陸部でも工場の新設が続く。工場が一つ建つたびに、製造装置だけでなく、床、壁、空調、配管といった周辺材料にも大きな需要が生まれる。塗料メーカーにとって、これは従来の建築塗装とは別の、技術力で差がつく市場である。
日本ペイントのような企業が、現地法人を通じて事例を公開するのは、仕様書に自社材料を載せてもらうための営業活動でもある。一度採用されると、同じ設計図が次の工場にも使われやすい。そこに参入の価値がある。
ビジネスへの影響
工場や研究施設の床を見直すときの判断軸
製造業の担当者にとって、この事例は半導体に限った話ではない。精密機器、医薬品、食品、電池の組み立てなど、粒子や静電気に敏感な現場は多い。床材を選ぶときは、初期費用だけでなく、清掃にかかる時間、補修の頻度、不良率への影響まで含めて比べたい。
例えば、床の清掃時間が毎日30分短くなるだけでも、年間では百時間を超える。この人件費と、不良品の減少分を合算すると、割高な高機能床でも数年で回収できる場合がある。
施工と立ち上げ時期の計画に落とし込む
継ぎ目のない床は、施工中の温度、湿度、下地の乾き具合に品質が左右される。工期を詰めすぎると、あとから膨れやはがれが出て、かえって粒子の発生源になる。施工業者を選ぶときは、材料の性能表だけでなく、同種の現場での施工実績と保証の範囲を確認することが肝心である。
また、水性系の材料は臭いや有害ガスの面で扱いやすい。設備搬入や試運転の日程を前倒しできるかどうかも、見積もりの段階で確かめておくとよい。